企画展葛利毛織工業工場とのこぎり屋根の感想

人が成長する事とは、周囲の期待を裏切る事だと知る「ひでっとる」です。よろしくお願いします。

ご来場いただいた方、ありがとうございました。ご来場できなかった方に向けまして、本企画展の概要を総括いたします。

目次

企画展の概要

企画展の為に撮り下ろした作品について

企画展の入口通路に、2連のノコギリ屋根の工場をグリッドに並べた作品と、織機を操る職人さん達のポートレイトを向かい合わせに展示しました。

来場者には、一宮市には多くのノコギリ屋根の工場が残っていること、古い織機の音を響かせて、今でも操業している職人さん達がいることを表しています。

そして、ポートレイトの一番奥の3枚が葛利毛織工業様の職人さん達の写真です。

手前に並ぶ市井の職人さん達(賃機・ちんばた)がご高齢者ばかりなのに対し、葛利毛織工業の職人さん達は若い職人さん達が一緒に働くことで、技術の伝承が続いている状況が見て取れる構成となっております。

この3枚の奥に、メインとなる葛利毛織工業工場の資料展示が続きます。

ここからが、展示内容のキモです。

5年前に発表した2連の工場のうち、ランダムに10件をピックアップして、数年前に訪れてみたら、1件が更地となり、1件が新築の戸建住宅に変わっていました。ノコギリ屋根の工場は確実に、日々減少しています。

ポートレイトに写る8件の職人さん達の内、展覧会時点で4件が廃業されていました。

賃機(親機から糸を受け取り、生地を織って賃料を頂く仕事形態)を古い織機で営む職人さん達はいずれ姿を消すことになりそうです。

葛利毛織工業さんのような自社ブランドを有する展開が、技術を伝える数少ない方法の一つとなっています。

新作の写真的な見どころと、製作過程の説明

ここからは写真的な内容、特に技術面の話です。

今回新たに用意したプリントを製作するにあたって、一つの懸念がありました。

5年前のプリントと色が揃えられるのかなぁ、と言うことです。

横並びに展示することは決まっていたので、出来るだけ違和感なく、連作として並べたいと当初考えておりました。

プリント製作は、名古屋のセントラル画材さんに依頼しているので、相談したところ、2点の考慮する項目があり、

  • 5年前のプリントの経年変化による色褪せ
  • 5年前と比べてプリントの技術革新により発色が向上している

この2点の違いを揃えることは、難しいことだとのこと。そこで今回の追加3枚は、今できるベストの状態で出力して、その時その時のベストを続けることで良いと思ったのです。

結果的には、新作の3枚がより鮮やかな色を帯びたプリントとなり、5年前の8枚との色調の違いが、被写体の立場の違いをより明確に表すことが出来たことが、かえって良かったのではないかと思いました。

新作のうちで、手間のかかった写真を例にして作業の過程をお見せします。

どんなことを考えてプリントしているか、が分かります。

撮影そのままの画像です。

右の人物のお顔が少し明るくなっていますが、対応可能範囲です。一番暗い部分、背景の織機の機械部分は潰れることなく十分なトーンがあります。このままでも良好なプリントが可能だと思います。

この先が個人的な解釈で、全体のトーン幅はそのままで、すべてのオブジェクトのコントラストをもっと上げたい、と感じています。黒いものをより黒く感じさせて、白いものは飛ばさないような感じです。

ですので、まずは、全体のコントラストを上げます。

そうすると、写っているものすべてのコントラストが上がったことで、肌の部分は白く飛び始めて、黒い服や奥の機械、床の多くが黒く潰れます。

ここから、各オブジェクトについて、表現したい濃度に修正します。

下のマスクを使って、主に人物以外の背景をまず明るくします。

人物以外の物が明るくなりました。背景のコントラストが上がって、全体の明るさが決まりましたが、暗い部分が潰れてしまいました。次のレイヤーマスクを使って、背景の暗い部分、織機や天井の機械部分などを中心に、より暗い部分を明るく持ち上げます。

細かいけど重要な部分を調整します。右側の男性の顔、髪の毛のディーテールを出すように、明るさを抑えます。真ん中の人物の洋服や右側の男性のパンツ、後ろの織機に出てきた偽色を抑えます。(モニターの画面サイズでは偽色は全く見えません)

モニター画面で見る分には完成ですが、展示用のプリントを発注するには、このままではうまくプリントが出来ません。このまま発注すると、黒い部分が真黒で仕上がります。もっと黒の要素が明確でなくてはいけません。より黒にメリハリの出るように、下のマスクを使って、コントラストを上げながら、黒の部分を明るくします。そして完成です。

最初の写真と完成した写真は、比較して見比べると印象の違いに気づくでしょうが、ほとんどの来場者は、プリントのコントラストには注意が向かないものです。でも、誰にも気づかれなくても、被写体の存在感が最も現れるプリントを作り続けています。

何と、今回の企画展では、プリントのコントラストや黒の締まり具合をご指摘された方がいらっしゃいました。その方は、日常的に黒の濃度に全集中されている焙煎珈琲豆屋maemura coffeeのご主人でした。このような何気ない言及に普段の仕事ぶりが現れます。

今回の企画展で、多くの方とお会いすることが出来ました。ありがとうございました。皆様との出会いを踏まえて、新しい視点で、これら作品を眺めることが出来たとともに、次のステージに向け進んでいこうと思いました。

今日も一日安全作業で頑張ろう!ご安全に。

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