Brushy One Stringの Chicken in The Cornにハマっている「ひでっとる」です。よろしくお願いします。
2022年7月16日から、8月14日までの期間、一宮市博物館の企画展で、「国登録文化財葛利毛織工業工場とのこぎり屋根」が開催されます。
体感型の写真作品の展示と、歴史的資料展示の融合です。是非足を運んでください。
入口ギャラリーを僕の作品で構成しておりますので、概要を少しだけご紹介します。
葛利毛織工業について
愛知県一宮市を中心とする地域は、昭和初期から高度経済成長期に、ガチャマン景気を迎え、町の至る所にのこぎり刃の形をした屋根の工場が建ち並び、今では旧式と言われる自動織機(通称ションヘル織機)がガッチャンガッチャンとリズミカルな音を町中に響かせていました。時が経ち、多くの機屋が仕事を終え、続いている工場は、どんどん新しいタイプの織機へと革新していく中、当時のままの製法を維持する数少ない工場の代表が、葛利毛織工業です。
2020年、工場を含めた建物群が国の登録文化財となり、歴史的価値が認められております。
のこぎり刃のカタチをした屋根の意味
想像をはるかに超える当時の喧騒
最盛期には4000件を超える数の工場がひしめいたと言われ、今も恐らく2000件は残っているでしょう。この風変わりな工場は、作業に欠かせない環境を内部にもたらします。
今回展示している、僕の職人さん達を撮影した作品を見ると分かるのですが、美しい光が、工場内部に立ち込めています。工場内部に直射日光が入ってしまうと、細かい糸の微妙な色の違いを見分ける事が出来ません。直射日光を排除しつつ、柔らかい北側に開いた採光窓からの光を取り込む為に、屋根をのこぎり刃のカタチにしているのです。外観の特徴には重要な意味があるのです。
僕の展示作品、肖像写真について
工場内部の光の状態が、写真撮影には最適な条件を生み、肖像写真のバックグラウンドを美しく演出しています。
のこぎり屋根の工場、ションヘル織機と、職人さん達は、三位一体の存在であり、その一体感を作品として表現しています。
葛利毛織工業がオールドスタイルを貫く意味
手作りで仕上げる丁寧さを残している
手作りの良さを残すことを評価するのは、僕達写真に携わるものにも心当たりがあります。現在主流のデジタル技術で生み出す写真は、精密で、隙のない仕上がりが可能です。それに比べて古い製法の湿版写真などでは、残る手作りの痕跡は、経年変化の傷やシミも含めて、作品としての見どころです。マルセル・デュシャンの作品、大ガラスも、破損した事を肯定する見識があります。前にも書いた、E・J・べロックのネガも相当傷があるが、プリントは美しく、むしろ傷こそが美しいかもと思ってしまいそうです。
葛利毛織工業の実践は、全く逆の軸足で、手作りの風合いを守り続けています。
手作りに近い速度で、糸への負担を減らして、一つ一つの動作をしっかり行って、きっちりした手作業の風合いを実現しているそうです。
革新された織機は、時代と共に速度を追及していきます。より早く、沢山の生地を生み出す為の技術革新を進め、大量生産が可能になります。そして、出来上がる製品も安く基準以上のクオリティを実現していて、大量消費の需要に応えてきています。
ただし、革新織機も万能ではないようです。速度が早くなると、各動作自体を小さくする必要が出てきます。
奈良の中谷堂の高速餅つきみたいな状態で、横糸を通す時の通り道の開き方が、しっかり開かなくなってしまうのです。高速餅つきの最初、早くなるまでは、お餅の返しがしっかりしてて、高速になるとペチペチってな感じですよね。餅つきは加減して最適な商品に仕上がるのでしょうが、織機はそうはいきません。構造から革新されている為、仕上げの良い生地にするには、革新前の旧式、ションヘル織機を使う必要があります。
手作業の様に、しっかり糸と糸の隙間を確保し、打ち込む動作も一回一回確実にこなす。
そんな動作を繰り返して出来上がる生地は、手織りの風合いを残したモノとなり、高品質を求める需要に答えることが出来ます。
実際の運用は忍耐力を要する工程をこなしながら、機械をまるで生き物の様に扱う必要があります。その日の天候や気温、湿度に対応した微調整をしながら動かしていくそうです。
フィルムカメラを扱っていた世代の人間にとって、撮影して、暗室でのフィルム現像、プリントまで、全てのプロセスを条件出しして、思い通りの制御が出来た時の達成感は、ションヘル織機で満足な生地が出来た時の心境に近いんじゃないかと勝手に想像します。僕自身も機械式のカメラを扱う際に親近感を強く感じます。
職人さん達の技術、ノウハウは、一朝一夕には体得出来ないものだそうです。葛利毛織工業には、伝承する若い職人がいる稀有な存在です。
僕の展示作品【ノコギリノコドウ】と葛利毛織工業
2017年8月に個展【ノコギリノコドウ】を発表しました。
市中に残るのこぎり屋根の工場と、そこで働く職人さん達の肖像写真を軸とした作品で、今回の展示はその当時の主要な作品を再展示しております。
今回はそれに加えて、葛利毛織工業の職人さん達の肖像写真を3点追加した内容で展示しております。
当時市中を回った、のこぎり屋根の工場で、稼働していたほとんどの職人さん達が高齢者でした。この三位一体(工場、織機、職人)の文化遺産を継続的に伝承して欲しい、と願った作品でもあったので、作品の訴求力の観点から、あえて葛利毛織工業を外していた経緯がありました。
当時の個展に、葛利毛織工業専務の葛谷様がご来場いただき、「機会があれば、是非」とお声掛けを頂いておりました。
今回一宮博物館のご依頼を頂戴し、願ってもない機会を頂けましたので、葛利毛織工業の職人さん達を撮影させていただきました。
未来へつながる架け橋が写っています。是非ご覧ください。
今日も一日安全作業で頑張ろう!ご安全に。