中学生の時の美術の先生が青木繁が大好きだったことを、美術館に行って思い出したひでっとるです。よろしくお願いします。
写真を撮る事って、目の前の光景の経年変化を意識する行為だと考えます。真新しいものを撮影する時だって、写真自体は残るから、10年、20年時が経った時、その写真には、経年変化を意識させる存在になるわけです。
僕の身の回りの、変化を意識する色々なものについてまとめました。
ジーンズの経年変化
ファッションや身だしなみには疎いのですが、ジーンズだけは好きで、学生の頃から好んで穿いて(はいて)いました。社会人となり、熊本県からやって来た同期が伊達者(南北に離れすぎ)で、服装や時計にこだわっていて、給料やボーナスを貯め込んで高級腕時計を買って、使い込んだ後、まだ生まれもしない息子にプレゼントするんだって話していた。ロマンチストでもある。
彼と一緒だった職場を僕が退職して音信は途切れたのですが、彼の影響もあって、ジーンズは特定の銘柄を好んで穿くようになって、若い頃は過ごしていました。
月日が経ち、子供が生まれてからは、子供優先の生活にシフトしたことと、年齢も相応になりジーンズを穿かなくなり、チノパンなどを代用するようになりました。
転機は昨年に起こります。
近頃、血圧を測るとヤバいくらい高いことに気づいていました。かかりつけのお医者さんに相談したら、実際に先生に測ってもらうと正常だとのご判断。でも家庭用の血圧計だとびっくりする数値が出るので、まあいい年にもなってきて、だらしなく太っていても何なので、ここはひとつ余分なものをそぎ落として、心身ともにシャープになろう!とダイエットすることにしました。
精神的な弱さに負けないように、目標達成のご褒美を設定しようとなった時に思い浮かんだのが、ジーンズでした。
目標に到達したら好きなジーンズを買う、と家族に宣言して食事制限を開始し、昨年末に購入できました。
十数年ぶりのジーンズ。
食事制限の間にも、どれを買おうか色々調べるわけです。そうすると、今まで聞きかじっていた程度の情報も、今のネット環境だとビビットに届くのです。
色落ち
とかなら、少し気にかけて、昔も履いていたけど、
ヒゲ、ハチの巣、ビンテージ
なんて、ディープな世界があることを知るわけです。そして、新たな概念
【 育てる 】
があります。ジーンズを育てるって何?と気になりだします。要するに、経年変化を楽しみ、使用感のある模様を残すことを育てると言うのです。
言葉の綾ですが、実際の子育ての難しさを痛感していて、「ジーンズなら、上手く育てられるのではないか?口答えもしないし。」などと、現実逃避の楽園をジーンズに求めるのでした。
冗談はおいて、経年変化を意識することには、写真を撮る行為と重なる部分を感じていて、かなり興味を持って、【 育て 】始めました。
簡単にジーンズを購入して、穿き続けるだけではなく、色んな仕込みに挑戦してみます。
ジーンズの使用感、シワをくっきり出すためには、
- 生デニム(一度も洗っていない)状態で購入
- 賛否両論な方法ですが、一度だけ洗った後、洗濯ノリで糊付けする
- 洗濯を極力せず、出来るだけ長く(汚いまま)1年程度の時間軸で穿き続ける
などのお作法があります。
2番目の理由は、生デニム(製造工程のノリが残った状態で販売している)からの1回目の洗濯は相当縮む為、せっかく作ったシワの位置が縮むことでずれてしまい、シワのクッキリ感が損なわれるらしいです。それを回避するために、一度水を通して縮ませて、ノリの付いた最初の状態を再現してから穿き始めるのが良いという考え方です。
実際のビンテージジーンズでは行わない工程ですから、ピュアな仕上がりを良しとする方は行わないようですが、色んなことをやってみたいので、もちろん2番目のプロセスもやってみました。
2021年12月に購入し、年末に一度洗って、乾かない前に裏面に糊付けし、乾いた後、毎日履き続けています。と言っても、仕事ではジーンズを着用しないので、帰宅してからと休日で穿ける限りの時間をジーンズと共に過ごしております。
穿き始めについた折れシワを、繰り返しの動作で強固なシワになるように、足上げ動作や、膝曲げ、屈伸の動作を繰り返していくうちに、当初のダイエット以上にダイエット効果が進行し、どんどん痩せていきます。
ジーンズは、ダイエットツールとして最強です。
残念なのは、ご褒美のはずのジーンズをジャストサイズで購入したはずなのに、ワンサイズ大きな状況になってしまったことです。厳密には、折れシワの位置もずれているかもしれません。これは、次の洗濯でどれだけエッジの効いたシワが現れるかにかかってきます。
購入したジーンズが23オンスと厚手の生地なので、これからの夏の季節はどうなるかが、家族全員の心配事です。
強制的に洗濯を執行命令が下るか、ファブリーズで逃げきれるか、せめぎあいが続きます。
シャッターの経年変化
シャッターと言っても、カメラのシャッターではなくて、僕の住んでいる近くにあった貸倉庫のシャッターの事です。どこの町でも見かける貸倉庫のシャッターですが、そこのシャッターは特別目を引く存在でした。
シャッターの経年変化がすごく美しかった。
百聞は一見に如かずで、どんなものか、見てもらいます。
シャッターの一つ一つの可動部が雨露にさらされて、その頻度の分布がサビの模様として現れています。南北に並び向かい合わせのシャッターは、周囲の建物の影響もあり、夕日の影響が強い為か、東側のシャッターのサビの色が濃くなっています。
20年ほど前の当時はこのような建物の外壁や表面の色合い、テクスチャーそのものに興味があって、カメラを向けてしまう傾向が強かったです。
でも、興味ある部分を見ているだけでは作品として成立しません。自己満足に堕する落とし穴です。
自分の好み、興味のある部分を作品の味として盛り込みながら、主題を形作る作業が出来て初めて、作品となります。
この気づきは、後の作品で生かすことが出来ました(ノコギリノコドウ参照)。
語れるストーリーでも良いです。この作品は20年の時を経て、やっと作品として成立するストーリーが見えてきました。実はこの貸倉庫はもうすでにありません。別の建物に代わりました。倉庫として実用に耐えている状態の記録となったのです。
唯一開いたシャッターからは、レトロフェイクな日産パオ(PAO)が顔を出しています。日産にはラシーンと言う似たような車種のテレビCMに「ドラえもん」と「どこでもドア」が出てきました。この開いたシャッターはさしずめ
「どこでもシャッター」
と見てみると面白い。時を感じる、考えさせる装置なのかもしれません。
車の色もシャッターの元々の色に近い、不思議なシンクロニシティを感じます。
写真と時間と経年変化
写真には、時間の経過を表現する方法があります。
土田ヒロミに代表される、セルフポートレイトを毎日撮影し、まとまった期間分を時系列で並べて展示する方法、もしくはコマ送りを動画的に流す行為。これは日々気づきにくい微妙な変化を、時間を凝縮することで、可視化できる効果があります。
時間の尺度は可変らしい(浦島太郎効果)ので、現実的には体感できない尺度の変化を楽しめているって言えば、時間の本質を体感できていると言えます。
同様に、風景や情景を定点で時間間隔を一定に保ってインターバル撮影した画像を動画として見せるタイムラプスも同じ効果を利用しています。
動きを伴わない表現で、時間の隔たりのある、同じフレームで撮られた2枚の写真を並べて展示する方法。畠山直哉の大阪球場の作品などに見られます。経年の変化を見るための標準的な方法です。
さて、物理学では、時間は存在しなくて、本質的には過去と未来の区別はないそうです。僕らの粗い知覚を通してみると、過去と未来が区別可能となるらしい。
もしかしたら、アジェは未来を捉えていたのかもしれない。僕には、鬼海弘雄のポートレイトも、同様に未来に触れている気がします。
経年変化を愛でることは、過去から現在の時間経過を感じるだけではなく、未来へのベクトルを示唆する何かが発動する気がしてなりません。
なので、せっせと日々同じジーンズを穿いて、シワを育てながら、愛でるのです。
今日も一日安全作業で頑張ろう!ご安全に。