パソコンの性能が向上したおかげで実現できた作品について

とても上手なカメラマンに出会えて、うれしくなっている「ひでっとる」です。よろしくお願いします。10年前なら嫉妬していましたね。

今回は、デジタルカメラの写真とパソコンの性能の関係を記事にします。

昔から、パソコンに負荷をかける作品ばかり製作しています。やりたい手法が、複数の写真を重ねることで実現するものが多かったからです。

この記事で紹介する作品は、完成形が140枚の写真を横に並べたものでした。2003年に撮影した、一宮本町のアーケード商店街の写真についての話です。

目次

一宮本町商店街アーケードについて

真清田神社の参道に商店が並び、そこに全長500m級のアーケードが長い間、架けられていました。現在は神社側の一部が撤去されていますから、350m程にはなりました。

最初は昭和31年に片屋根式のアーケードが架かり、昭和46年に全蓋式に架け替えられました。昭和38年公開の映画「高校三年生」では、まだ片屋根式の様子が写しだされています。

写真は、神社側から見たアーケードの北端から見た写真です。

ちょっと脇道にそれますが、上の説明の写真は、ピンホールで撮ったものなので、ピントは来てるのですが、ぼやけています。雰囲気と様子はわかると思います。というか、

ブログでは、ピンホール写真と相性が良くない?

写り過ぎてない感じが気に入っているので、作品以外はこのスタイルをしばらく続けます。

2003年頃の状況と撮影について

初めてのデジカメ購入

それまでは、モノクロフィルム一辺倒で写真を撮っていました。

一般的には、カメラはフィルムからデジタルに移行していて、僕も遅ればせながら、そろそろ使ってみようかなと思っていたころです。

デジカメってどんなものなのかなぁ、試しに使ってみよう。

散々フィルムカメラを買っていたので、新しくデジカメを購入するには、妻を説得する必要がありました。

妻が使うカメラを買おうと持ち掛け、じゃあ簡単に撮れる最近流行のデジカメがいいんじゃない?と妻専用カメラを購入するという大義名分を振りかざし、許可が下りた記憶があります。

今思うと、「どうせ自分で使うためでしょうに」と見透かされていたはずです。

もちろん、ほとんど僕が使っていました。

僕が選んだのは、Konica Revio KD-510Zでした。500万画素の撮影が出来る当時としては高性能な部類のコンパクトデジカメです。Konicaの製品が大好きで、フィルムカメラも一式揃えて持っていたほどです。今も手放さず、所有し続けています。購入したカメラを手放したくない性分なだけではありますが。

このカメラは、なかなかに良く写った印象で、それ以降フィルムカメラとKD-510Zを併用することになります。

今見ても、大きなサイズにプリントしないなら、十分きれいな写真が撮れました。特筆すべきは、画像の歪みが素直で、補正が楽です。当時のレンズ設計は、無理のない感じだったかもしれない。Konicaのレンズが優秀だった気もしますね。

新しくカメラを入手すると、作品を撮りたくなるのは世の常でしょう。その時は、

身近な街を撮って作品にしてみたい

と思っていました。モノクロではなく、色のあるデジタル画像で残すには、商店街の雰囲気が良いのでは、と思ったのでした。街のアーカイブにもなるし、記録的な意味も持つ作品を残したいと思いました。

ウジェーヌ・アジェですね。

1997年、隣町の稲沢市荻須記念美術館で【パリ・風景の記憶 アジェの写真とオギスの絵画】が開催され、そこでアジェの写真を見ました。

モダンプリント(作者が作ったオリジナルプリントではなく、後世の第三者が作成したプリント)とは言え、美しいモノクロプリントに映し出されたパリの街並みは、当時のパリの風景の記録資料としての価値をはるかに超える、視覚的、観念的価値を帯び、圧倒されたことを思い出します。

眼が歓喜する系のプリントのディーテールと、現実を撮影したはずなのに、現実感を無くした風景に見える、感覚的な違和感に大いに魅力を覚えます。

アジェの意図は、絵描き用の素材としての資料であり、美術館や図書館へ売り込むための街並みの記録資料としての価値であったはずなのに、最終的には撮影した本人の全くうかがい知らない別の評価軸を生まれた経緯を考えると、

自分のできることを一生懸命やれば、それで良いんじゃないか。

と、単純に思うのです。なので、しょっちゅう出掛けられない状況で生活しているならば、自分の身近な街を主題にすればよい。それは僕の原点で、どんな状況であれ、手の届く範囲が僕の活動範囲、撮影範囲になっています。

商店街の撮影

とにかく一直線に長ーく伸びる商店街なので、それを強調するには、同じアングルが横並びに続いていることが分かる撮り方がしたいと思いました。なので、

真正面から撮ったお店を横に連結して一枚の写真にしちゃおう。

と考えたのです。実際に撮影して、後処理でリサイズ(データのサイズをウェブ掲載用に小さく)しただけの写真がこれです。

撮影は、ほぼ誰もいない朝早くに、踏み台に乗って、出来るだけ真っすぐカメラを向けてると、少しだけ天(建物の上の方)が写らないので少し上にカメラを傾けて撮影しています。なので、上の方が小さい画像です。これを500mの往復約1kmを延々と撮り続けます。さすがに最初と最後の方はアーケードの外からの光の状態が変わっていましたね。

撮影時間を早朝にした理由は、

  • 店の方に声を掛けられ続けたら、撮影が完了しない
  • シャッターの閉じた写真で、「シャッター街」と言う言葉を隠喩的に作品に盛り込みたかった
  • 店舗の内部や、行きかう人物を入れないことで、建物の様子をより強調できる

からです。

後処理の画像加工について

見事に樽型の歪みを持つ画像ですが、画像の歪みを当時はきれいに直すことが出来ませんでした。歪みを修正すると、パソコンが止まりました。なので、仕方なく、歪みを伴ったままつなげる方法を選びました。

当時のパソコンはwindows98で、メモリーが64M、ハードディスクが6Gしかない。このスペックでは、写真画像サイズが1枚2M、数枚重ねるとどんどん遅くなり、最後には動かなくなります。サイズを調節してより小さいサイズで作り込んでみても、140枚を並べるだけで、パソコンが悲鳴を上げます。一枚を少し動かすだけで、何十分もダンマリしたりして。

思い通りの画像修正が出来ませんでした。

プロが使うハイスペックのパソコンなら、当時でも満足できる作業が出来たかもしれませんが、まだそこまで自分に投資する勇気がなかったです。

せっかく撮影したデータなので、ひとまずの完成形に持って行きます。

それは、苦肉の策なのですが、ウェブサイトで見せるために2、3コマを重ねた画像をコマ切れで表示させてボタンで前後に移動する感じで、あたかも移動しているかのような映像風に作って配信してました。

やっぱり、じっくり全体を俯瞰したいという野心が、当時からありましたが、実現することなく時が経ちます。

2021年に頂いた機会のおかげで完成

講演会の依頼

2021年晩秋に、一級建築士でギャラリストの栗本真壱氏より、写真に関するセミナーの講師の依頼をいただき、快諾しました。これまでにも、栗本氏にはお世話になっており、素晴らしい経験をさせていただきましたので、断る理由はありません。

お題は、建築写真について。場所は、Re-Tail(リテイル)。一宮市内にある旧尾西繊維協会ビルで、この中にある書庫を改装したギャラリー「書庫と〇〇」です。ここは、栗本氏のギャラリーです。

この古い洋館の1階にある書庫は、ガチャマン景気と言われる物凄い好景気に沸いていた尾西地区の繊維関係の資料や記録が収められていた場所です。そこで建築写真を話すわけです。

僕はセミナーを行うにあたり、自分の所有する地元で撮った建築写真を飾り、古い街の様子を飾った空間を出現させ、その話をすることは、時空のずれを内包していたこの場にふさわしいのではないかと直感しました。

昔の作品を丁寧に再製作して展示することにしました。その作品の一つがこの商店街の写真です。

会場をぐるりと四方を囲んで展示しているのが、商店街の作品です。この作品と同時期の、2003年ごろに撮影した地元の建築写真を複数展示した会場で、少人数ですが、セミナーを開催しました。この展示はセミナー当日の1日限りの展示でした。他の作品については別の記事で解説します。

結果的に作品が完成する

おさらいで、この時の展示した写真を見ていきます。まずは、オリジナルから水平と垂直を直した画像です。

昔はこのように、水平―垂直の線に合わせて画像を加工する事が大変でした(パソコンの処理が追い付かず止まってしまいました)が、現在は比較的簡単に処理が可能です。フォトショップという写真加工ソフトについては、別の記事でまとめますが、レンズ補正と言う機能を使います。これでつなぎ合わせる準備が出来ます。

つなぎ目の部分は、違和感のないように手を加えていきます。これを全長500m分の東西と南北も繋げます。

完全な屋内ではないので、どうしても外からの光の影響があり、露出が揃わない部分は出来る範囲で違和感を低減する処理を施します。

縦のサイズを150mmとしても、横幅が15500㎜(15mと50㎝)になってしまいました。

商店街を俯瞰したかった

自分の願望が18年越しで実現しました。元書庫のギャラリーは、さながら18年前の街の縮図でした。

できた作品を俯瞰して眺めると、当時はすでに平成なのに、かすかに残る昭和の香りが店の外観に見て取れます。作品に記録性が備わっていることに満足しています。

現在の街の様子と比較すると、確かな新陳代謝が起こり、平成的な変貌を遂げているようです。令和の時代になり、改めて見直せる機会を考えようと思います。

1日限りの講演会を終えた作品は、僕の作業部屋の壁に飾られ、それを見るたびに、再び活気を取り戻す商店街の姿に思いをはせるのです。

今日も一日安全作業で頑張ろう!ご安全に。

目次