最近しゃっくりや咳き込んだ直後に続けてクシャミが出る「ひでっとる」です。よろしくお願いします。
去る2003年、一宮市にあるランドマークタワーを撮影し、作品として発表していました。
時が経ち、改めて展示する機会に、違う見せ方にしてみた経緯を記事にします。そこには、トリミングに関する考察が少し絡んできます。
ツインアーチ138について
九州方面から中国自動車道で名古屋方面に帰る途中、吹田まで来ると岡本太郎作の太陽の塔が左手に見えてきて、やっと大阪まで帰ってこれた、と実感できるのがランドマークタワー。
僕の街にもランドマークタワーがある。東海北陸自動車道での帰り道、岐阜県から愛知県まで来るとそれが現れる。
ツインアーチ138は異なる大きさの2本のアーチが交差して、上部に展望台を配した構造のタワーで、近未来感を放つ存在であります。
人類の根源的な力、存在感を放つ太陽の塔とは真逆のベクトルながら、強度としては負けていない異彩の放ち方、目立ち方をしており、作品にしたいと思ったのです。
その一番の特徴は、ずばり、立地です。
都会的な要素の見当たらない、のどかな街並みにドカンと立ち上がった近未来的な印象を持つタワー。その周辺の様子とのギャップを作品に落とし込む為には、どのように見せると良いかを考えました。
2003年の展示方法
そのころは、個展などの写真展を企画する意義が見つかりませんでした。まだ自分の作品が自己満足の産物の域を出ないなぁと自覚していたこともあります。
そこで考えたのが、自分のウェブサイトで作品を発表する事でした。
写真展と違い、作品展示枚数の制限や額装を含めて体裁の準備もいらない、何より、表現方法の制約が少ないことが気に入っていました。ウェブサイトで発表することを前提で考え、
タワーを周りの360度から撮った写真をループで見せる
事を思いつきました。ウェブでなら、パラパラ漫画みたいに写真を入れ替えていくと、タワーを見ながらクルクル周囲を回っているように見せることが可能です。
タワーが大きさの違うツインのため、見る角度によってタワーの見え方が変化することも楽しいと思いました。
撮影ルールは、タワーからある程度距離を取った場所から、タワーを中心に画面上に配置して、周辺の状況が入るように周りを一緒に撮影します。
それを360度ぐるっと一周撮り、パラパラ漫画の動画もどきを作ってウェブサイトに展示していました。
当時のイメージに近いものを再現して作ってみたのがこれです。
直近の作品の展示方法
2021年に行われた写真の講演会「書庫と写真」において、会場に展示する作品に、ツインタワー138の作品も加えて展示し、建築写真についての講演を行いました。
一宮の歴史的資料を保管していた書庫で建築写真についての講演を行うにあたり、18年程前のタワーの作品をはじめ一宮の建物の作品を展示する中で話をすることに意義があると直感しましたので、プリントにして展示をしようと決めました。
会場のギャラリー「書庫と〇〇」は打ちっ放しのコンクリート壁に木製の棚があるかなり印象深い雰囲気の場所なので、自分が持つ移動式の額フレームを導入しようと思いました。作ったは良いが、出動機会のなかったものだったのですが、ギャラリーの色調に馴染むと思いましたので、迷うことなくその額に合うように作品を再構成しました。
先にフレームありき、での変更です。
でも、作品の意図するコンセプトのピースが、パズルのように、上手くハマり始めます。シンクロニシティのような不思議な偶然です。
まずは、額は正方形のフォーマットの写真を想定して製作したので、元々が4:3の比率で撮ったタワーの写真を、左右カットして正方形にして額に合わせてみました。
思ったより悪くない、むしろ画面に占めるタワーの割合が増え、バランスが良くなったと思いました。
額のフルセットで36枚展示用でした。偶然にも、ツインアーチの作品を製作した当初は葛飾北斎の富嶽三十六景を意識していました。表現手法は違います。北斎は支柱となる富士山を作品の構図に合わせて様々な位置に配置しているのに対し、ツインアーチはあえて中心に据えて、回転しながら位置を固定できるようにしています。
それが、ベルント&ヒラ・ベッヒャーの構図にも似た、淡々と同じ視点を繰り返すタイポロジーに通じます。
製作した額としては、当初の意図とは少々違う形ですが、ようやくデビューできました。
移動式展示額の製作過程
この移動式展示額について説明します
作ろうとした経緯
2020年春と言えばそう、新型コロナの影響での緊急事態宣言がありました。
街に出ることも、仕事や学校に行くこともできない状態が今後も継続されるかもしれない状況下で、自宅で何か出来ないかを考えました。
これからは、体験すること自体が貴重だし大事になると考え、写真を紙媒体で展示する事が見直されるのではないかと思ったのです。
ネットでの展示ではなく、モノへの回帰、手触りだったり、コミュニケーションだと考えたのです。
すでに屋内での人と人との距離感が問題となっていました。だったら、青空の下でも、どこででも設置可能な移動式の額を用意すれば、利用価値が高そうだ、と考えたのです。
想像したのです。福岡の屋台みたいに、路上や公園で写真を飾って、作品を見てもらいながら、作品について語れる日常を。そんなことが出来る道具をつくることにしました。
仕様を決める
以前から持ち続けている、正方形に写るフィルムカメラがあります。とてもよく写るのですが、使いこなせた手ごたえがまだ得られない、困った道具です。この機会に、本腰を入れてこのカメラと付き合おうかと考えたので、移動式の額は正方形の額にしました。
正方形のフォーマットと言えば、デイビッドホックニーの写真作品の中の、ポラロイドで撮影されたポートレイトの一連の作品があって、その佇まいが好きでいつか自作の参考にしたいと考えておりました。
ホックニー本人は画家で、広範な表現の幅の中に写真作品が含まれていて、それが絶妙にかっこよい。写真1枚で何かを表現することはせず、何枚も写真を並べて一つの作品とする方法で多くの作品を製作しております。
話を戻すと、額を並べるということは、一つ一つを単独で飾ることもでき、なおかつ合体して一つの塊としても使いたい。固まりになった場合は、全体で移動が可能ならなお良い、という大枠のビジョンを最初に考えました。
最初の発案での実現したい特徴を列記すると
- 合体できる正方形の額
- 合体時には自立させることができ、移動ができる
- 木製額
- ガラス、アクリルを介さない直接展示する額
- 車で運ぶことのできるユニット化
イメージを確認するために、メモ書きをしていました。
一つの額の大きさから、実現可能なジョイントの最大数を割り出します。
プリント用紙をA4サイズにしました。手軽に扱える大きさで、ディテールが読み取れるサイズなので。短辺210mm、額に写真がカブる飲み込みサイズを各辺10mmと設定イメージサイズは一辺190mmとなります。そこから全体の大きさを割り出し、
6×6=36個の額ユニットを作ろう
と決定しました。当時の資料では、高さを1800mmくらいまでにすると写真が見やすく、取り回しもしやすいと思った形跡があります。詳細を詰めていく中で、どうしても作り込みたかったのが、
見せる面、写真の周辺に部材のつなぎ目を出来るだけ減らして、写真に集中させたい。
と思いました。これが実はめちゃくちゃ大変でした。
メモ書きを見てもわかるのですが、写真の周りのフレームを、木製のオーバーマットみたいにしたかったのです。しかも部材のつなぎ目無し。なのでこれは、板の真ん中をくりぬいて、勾配部分を削り出して作りました。
材料は5.5mm厚の合板で、正方形に切り出してドリルで穴を一か所開けた後、糸鋸でざっくりと四角の穴をくり抜きます(1)。合板なので表面の化粧板がすぐ割れてしまいます。目標の寸法に近いところまで来たら(2)、あらかじめ表面に来る化粧板だけは小刀などで丁寧に形を整えます。
あと数ミリまで追い込めたら、やすりに切り替え、勾配部分の角度に気を付けながら、削っていきます(3)。
最後(4)では、削り出すコーナーが真っすぐになるように整え完成です。これを36枚作るのに相当時間を要しました。緊急事態宣言下の巣ごもりを利用したからこそ出来たのです。
出来るだけロスの無いように、部材を切り出すレイアウトも悩みどころでした。
いつも何かを作ると、悲しくなるほど大変になってしまう。
写真を飾るのが目的なので、出来るだけ目立たない色に塗装します。より黒に近いブラウンにしたかったので、インスタントコーヒーで下地を塗り、その上からビンテージ風に仕上がるワックスを塗りました。
ワックスが触っても付かなくなる、落ち着くまで数か月かかりましたし、コーヒーの下地の匂いが気にならなくなるまでは、半年以上かかったと思います。正直、コーヒーはやめた方が良いです。その分、色は満足したものに仕上がりましたけども。
どんどん実現したいことを追加していきます。もう止まりません。
設計上では、分解して自家用車に乗せて移動できるサイズにユニット分割できるようにしました。
キャスターを取り付け、組みあがった状態でどこへでも移動可能にしました。
写真背面から光を当て、かすかに写真を光らせることにしました。内部は徹底して白く塗り、LED蛍光灯を数本仕込みました。
何とか完成。使ってみて思う事
持ち運びについては、課題が残りました。我が家のマイカーでは一回で運ぶのがギリギリのサイズで、運転手以外誰も乗れない状態です。その分土台がしっかり作り込んだので、少々の風ではびくともしません。
でも、完成。そして、曲がりなりにも実戦投入でき満足です。今後展示できる作品を作って街に出たいと思います。
トリミングしたっていーんじゃない?
最後に今回の展示で思うことがあった、やや古典的な、写真特有のルールについて書きます。
昔よく大事とされた手法で、ノートリミングと言うのがあります。使うカメラで撮れるフィルムやセンサーを最大限用いて見せる方法で、撮影した画像の一部分を切り取って用いるトリミングを強く戒めるルールです。
30年前に僕が写真学校に在籍していた頃は、絶対外せない厳格なルールとして存在していました。トリミングすることが悪とさえ言われる感じでした。ノートリミングで作品を完成させることで、撮影作業全般に一貫性が出て、作品に緊張感が宿る。ひいては、写真の上達が早いという論法です。
極端な作家は、自分の作品はノートリミングです、という証拠として、フィルムの画像のフチを画像の周辺にわざと見せるように残してプリントし、それを展示するのです。
今思うと、撮影者側の都合で決めているルールの証拠を、鑑賞者側が見せられていることに違和感を感じます。
写真家は、自分が作りたいように作ることに集中してしまうと、こういうことになる。
写真家は、表現することそのものに集中するべきで、”自分が〇〇したい”は本当に不要です。写真ですから、目の前の現象にコミット(干渉)することに集中します。コミットした結果と、先人の積み上げてきた表現手法との干渉縞が、新しい表現になります。
自分の作品にも、そういう要素がないか、独りよがりになっていないかを常に自問自答しています。
なので、トリミングはしてもしなくてもどちらでも良いです。作品の良さと全く関係ありません。
今回のツインタワーの作品は、本来は4:3の比率の写真を1:1の正方形の写真にトリミングして、6x6の額ユニットで展示しました。
4:3の元の比率では表現できなかった一体感のある見せ方になりました。
今日も一日安全作業で頑張ろう!ご安全に。