アニメ映画で最も好きなこの作品の中で、重要な役割を果たすのが写真です。写真の役割に焦点を当ててこの映画を見ると、肖像写真の価値に気づくでしょう。僕の目指す写真は、まさにこれに尽きます。大切な家族の肖像写真を飾って、それが当たり前の生活。それぞれの人にそれぞれの大切な肖像写真があり、それが飾られている日常は間違いなく、人生を豊かにします。

毎日見える場所、壁に掛けます。肖像写真は撮影という出来事の痕跡です。自分の姿を見ると共に、痕跡を追っているのです。撮影にまつわる物語を瞬時に思い返すのです。

無意識のうちに、時を意識する瞬間を日々重ねることになります。写真と共に生活することは、「時間」を意識する事なのです。

それって毎朝鏡を見る行為とは根本的に違います。外見的な身だしなみでなく、内面的な身だしなみを整えているようです。

ふとした瞬間、なにげなく見た肖像写真に、過去の記憶や思考を思い出すことがあるかも知れません。

「時間」という概念は、実体のないもので、人間の認知能力の粗さが生み出す幻想らしい。さらに、過去と未来も実は区別が出来ない代物のようです。

僕にとっては、「写真」と「時間」は絡み合い、常に同居する位置関係なのです。

キャッシュレスな世の中に移行して、目にする機会が減ったとはいえ、流通する多くのお札には肖像画が描かれています。もちろん偽造防止に適している為ですよね。つまりは、肖像が最も人間の知覚にとって、少しの違いを見分けやすい、敏感な題材だという事です。

看板広告に肖像写真を使う事例が増えてます。ネット広告に押されて、看板広告には訴求力がないと思われがちですが、どうもそんなことはないそうで、特に肖像写真の看板広告には訴求力があるようです。顔バレのリスクに余りあるメリットがそこにはあります。

不特定多数の人に肖像写真を公開する、なかなか勇気がいる行為です。特に個人情報保護の観点では、肖像写真はその取り扱い対象です。もちろん、扱いには細心の注意を払うべきです。

僕は、数年前から肖像写真を発表する為に、機屋の職人さん百数十名の方に撮影を依頼したところ、十数名の方にご了解を頂けました。彼らは一般の方で、肖像写真を発表しても直接的なメリットがない、むしろリスキーな条件にもかかわらずご快諾いただいたのです。

彼らの凛とした態度は、僕の撮影した写真を通して人々に伝わり、作品の訴求力の根幹となりました。彼らの立ち居振る舞いに、敬意を感じずにはいられないし、これこそが現状の閉塞感を打破できるヒントとなると信じています。

僕の活動に対する理解力、利他的条件にこそ瞬時に行動を起こせる判断力。尊敬すべき人々にお会いできた幸福を感じずにはいられません。彼らの姿は、「ノコギリノコドウ」のプロジェクトでご覧いただけます。